紗羅と咲、宿命の女の戦い 32話
「イタッ! もっと丁寧に扱いなさいよッ!
誰の髪を触ってるか分かってるのッ!」
雑誌を読みながら咲は女性ヘアスタイリストに怒鳴りつけた。
「あなた・・・もう来なくていいわ、おさがりなさい。いまあなたは、誰の髪を触ってるか分かってないようだわッ!」
「も、申し訳ございません!!! 祐天寺さま!」
「誰か! すぐに新しいヘアメイクの手配をして頂戴」
楽屋近くの喫煙所では、ヘアメイクの女の子が泣きじゃくっていた。取り囲むようにスタイリストや他のスタッフが慰めている。
「あなたが悪いんじゃないわ。いつものことよ、祐天寺咲は」
「本当に・・・美貌と財力と実力、全てがズバ抜けているけど、あの性悪な性格も天下一品だわねぇ」
10代のうちに雑誌モデルで鮮烈なデビューを果たした祐天寺咲は、その後女優や広告モデルなどエンタテインメント業界で精力的に活動の幅を広げた。
そのコケティッシュな容姿と男性に媚びないまっすぐな発言が、デビューからわずか数年で10代、20代の女性の憧れの女性としてゆるぎない地位を築いていた。
その陰では祐天寺咲に泣かされたスタッフはこれまで数えきれない程いた。
しかし多くの女性からの絶大な支持と数々のスポンサーをつとめる祐天寺一族の跡取り娘であるため、誰も逆らえることは出来なかったのである。
そうして飛ぶ鳥を落とす勢いの咲であったのだが、美肌紗羅がデビューしてからは、より一層情緒不安定になっており、周りのスタッフに当たり散らすことが以前にも増して多くなっていたのである。
咲が手にしていた雑誌の表紙には、
“国民の妖精 美肌紗羅の優雅な1週間をパパラッチ♥”と特集タイトルが目立っていた。
雑誌を握りつぶすと楽屋の鏡に叩き付けた。
「美肌紗羅、あなたの仕事を全て奪い取ってやるわ・・・そして、あなたの愛する男性も、そう! なにもかも!!」
咲はそう言って、ヒビが入った鏡を睨みつけるのであった。