紗羅と咲、宿命の女の戦い 41話
「このホテル、貴方のお父様が出資されてるのよね?櫻小路家は本当に魅力的だわ。」
スィートルームのベッドの上で達哉に話しかけた。
「・・・あぁ。シャワー先に使わさせてもらうよ」
そっけない返事をした後、達哉はバスルームに向かった。
ミラーに映る疲れきった自分の顔から、思わず目を背けた達哉ー。
“僕はいったい何をやってるんだ!”
そう自分を責め続けるように熱いシャワーを浴びた。
ソファに置かれた達哉のジャケットをそっと手に取る咲。
「達哉の匂い・・・」
そっと顔をジャケットに近づけたそのとき・・・
ポケットから写真が落ちてきた。紗羅と達哉の2ショットだ。
そこにはメイクもしていないのに極上の美しさを持つ紗羅とこの上なく幸せそうな達哉の笑顔があった。
「紗羅にしか見せない顔なのね」
何度も肌を重ねてきた達哉に少なからず感情が動き始めていた咲は、自分でもコントロール出来ないほどの熱い感情が沸き上がりはじめた。
祐天寺家の跡取りとして育てられた咲であったが、決して幸せとは言いがたい人生であった。
度重なる父親の浮気、少しずつ心を病みはじめた母親は療養中の別荘で自殺を図った。
“それほどまでして守らなければいけない”祐天寺家を誰よりも憎んでいるのが、咲であった。
「達哉!貴方をどうしても傷つけたい!今すぐに!」
もう咲の感情は自分でも抑えきれなくなった!
バスルームから出てきた達哉に向かって咲はいつものようにベッドに誘う。
咲のドレスを脱がし始める達哉に、「ねぇ、口づけをして頂戴」と囁いた。
ためらう達哉、そう二人は幾度も抱き合っているが唇と唇を重ねたことはなかった。
「咲さん、ごめん。僕は・・・」
「あはは!達哉ったら、嫌だ!本気にならないでほしいわ。
でも面白いわね、親子って。わたくしが望めばいつも口づけを下さるわよ、貴方のお父様は♪」
「え・・・今・・・なんて・・・っ!」
達哉は咲から逃げるようにベッドから出た。
「あら,聴こえなかったかしら?貴方のお父様はいつでもわたくしにキスして下さるって言ったのよ。
ねぇ達哉、わたくしはね、愛とか恋が世の中で一番くだらないことだと思っているの!!ご存じなかったかしら?ウフ♥」
卑劣な言葉を笑いながら話す咲の姿は、達哉にとって堪え難いモノであった。
達哉の繊細な心が崩れていく音が鳴り響いたー。