紗羅と咲、宿命の女の戦い 40話
高松七恵が差し出した写真には…
ホテルのロビーを歩く祐天寺咲と櫻小路達哉の姿が映っていた。
「まさか…そんなはずはないわ。何かの間違いよ、ハハハ」
一笑する鮫島女史に、高松七恵は静かに応えた。
「今世紀最大の美の闘いが、きっと始まる…それが今世紀最高の美の饗宴、いいえ狂宴、と言うべきかしら。
今のままでは紗羅はつぶされてしまう!」
そう言って立ち去る高松七恵の後ろ姿をサイドミラーから眺める鮫島女史には、悲劇の幕がすでに開かれていることにまだ気づいてはいなかった。
""紗羅?今日撮影が早く終わりそうなの。エステ、ご一緒しませんこと?""
紗羅の携帯に咲からのメールが届いた。
「まあ♥咲さんからのお誘い♪光栄だわ」
休日のブランチを自宅の庭園でゆっくりととっていた紗羅は、OKのメールを返し、再びハーブティを呑んだ。
少し肌寒くなったので彩り緑の温野菜サラダとみずみずしいフルーツの盛り合わせ、テーブルに豪勢に並べられていた。
「本当はケーキも食べたい・・・だけどあさっての撮影までは我慢ですわ」
甘いものには目のない紗羅は、いつの間にか美の先駆者としての自覚を持ち始めたようである。
夕方5時、紗羅は中央区佃のタワービルの最上階にいた。
「YUTENJI エステティック」と記されたドアのチャイムを鳴らす。
「ようこそ、お待ちしておりました」
通された部屋は大理石でつくられた50畳ほどのVIPルームであった。華美すぎない最高級の家具やシャンデリアが紗羅の瞳に映し出された。
「紗羅さん、お待ちしておりましたわ」
奥のバスルームから出てきたバスローブ姿の咲が、優しく微笑んで紗羅を迎えた。
ここ最近めっきり仲のよい二人であった。紗羅は姉御肌の咲にすっかり打ち解けており、仕事のことはもちろん、プライベートの話までするようになっていた。
そう、咲の本心に何が潜んでいるかも知る由もなく・・・。
世界有数のVIP顧客を持つエスティシャンによる施術は、二人をより一層美しく輝かせた。
「咲さん、今日は本当にありがとう。至福の時間を過ごせたわ」
上機嫌の紗羅は迎えの車に乗り込んだ。
紗羅の見送りを終えたエステスタッフたちが
「紗羅さま・・・本当になんて美しい肌の持ち主なのかしら!触ると弾けそうな潤いと、艶やかさ。そしてあの透き通るような白さなんて・・・もうパール以上の輝きでしたわ!」
と興奮気味に話していた。
その直後、咲の手があるエステシャンの頬を強く打った。
「おだまりなさい!やとわれの分際で!あのオンナを褒めることなど、決してわたくしが許さない!」
エステシャンたちは一瞬にして凍りついてしまった。
「紗羅・・・このわたくしに勝とうなんて何様なのっ!?わたくしは絶対あなたを許さない!」
ワイングラスを窓に叩きつける咲であった。