美肌一族

これが初代の美肌一族。
もう1つのストーリー

紗羅と咲、宿命の女の戦い 44話

「記憶、、、欠乏症、、、?」
蒼白い顔の紗羅は、聞き慣れない病名を確かめるように口に出した。
「・・・あぁ、そうらしい。達哉君は、キミがソウルに旅立った日の夜に別荘で自殺を図った。幸い発見が早く一命は取り留めた。ただ、彼に何か大きなショックを与えてしまう出来事があったらしく、、、そのショックを含めて全ての記憶を失なってしまったようだ。そうしないと、、、生きていられないんだと思う。そう、自分の名前すら、、、憶えていないようなんだ」
「なぜ?!もっと早く教えて下さらなかったの?!こんなことってっ!!!」
紗羅は、達哉の眠る部屋隣の控え室にあるソファに顔を押し込めた。
「紗羅くん、本当にすまない。我々も悩んだんだ・・・。しかし、救急車で運ばれる達哉君が“紗羅には連絡しないで欲しい”と、うわ言を繰り返していたようなんだ」
「・・・そんなことってっ!!!」
紗羅は自分の身体の中のエネルギーが一瞬にして奪われたかのように、憔悴しきってしまった。
控え室の扉が開いた。
「キミが美肌紗羅くんかね?」
やや落ち着いた声を持つ、威光を放つロマンスグレーの紳士が入ってきた。
「失礼。わたしは櫻小路達乃助、達哉の父親だ。大河内くん、久しぶり」
「これは!櫻小路様!ご無沙汰しております。」
「うん。少し紗羅くんと二人だけで話がしたいのだが、よろしいかな?」
「も、もちろんでございます!」
そう言って、大河内取締役はすぐさま控え室を後にした。
「達哉とつき合っていた、というのはキミかね?紗羅くん」
静かに達哉の父親は話しかけた。
「はい。達哉さんとは留学時代の先輩で、偶然、、、日本で出逢いました」
紗羅は、力を振り絞って答えた。
「・・・そう、偶然とはね。ハッハッハ、これは面白い。それで何かね?達哉とは将来の約束でもしているのかい」
「いいえ、まだ何も。でも、ずっと一緒にいられたら、と考えておりました」
「結論から言おう、もう達哉とは今後一切関わらないでほしい。キミが現れてからの達哉は少々私の意見を聞かなくなってしまってねぇ・・・
急に留学を辞めてあんな代理店で働きたい、なんて言い出す始末。達哉にはもっとやってもらわねばならぬことがたくさんある。この櫻小路家のために。
挙げ句の果てにこんな騒ぎまで起こして・・・キミの存在は、迷惑なんだよ、紗羅くん。手切れ金が欲しいのであれば、いくらでもこれに金額を書いてくれたまえ!」
そう言って達乃助は、紗羅に小切手を投げつけた。