紗羅と咲、宿命の女の戦い 34話
「どうしても・・・行くのかい?しかもたった一人で・・・」
成田空港にあるプライベートジェット機専用滑走路の超VIP個室ラウンジの中には、
美肌紗羅と美肌エージェンシーの大河内取締役がいた。
「大河内さん、そんなに心配しないで頂戴。プライベートアイランドだから、マスコミなんかもシャットアウト出来る。それに、少しゆっくりしたいのよ、ひとりで・・・」
「しかし、紗羅くんが企画した“新・美肌一族入浴剤”の問い合わせが殺到して会社の回線はパンク寸前。発売前から在庫切れの状態なのだよ!発案した紗羅くんへのインタビューもオファーが多数来てる」
「まぁ、それはなにより♥
わたくし、美のはじまりはバスルームから生まれる・・・という信念がありますのよ。実はわたくし、お母様の胎内にいる時を覚えているような気がするの!
だって、人間が一番愛情と希望を注がれている瞬間ですもの!バスタブにいると、どうしてもお母様に包まれているような、そんな気分になりますのよ。
今回の入浴剤もそんなわたくしの思いつきから始まったこと。世界中から出来る限りの成分を集めましたわ」
「そうだね、開発は大変だったようだ。ミルキーバスだけでなく、急遽ホットバスをつくりたいと紗羅くんが言った時は発売まで間に合うかとヒヤリとしたものだよ」
「そうね、本当にごめんなさい。でも・・・あの時はわたくしの哀しみをどうしても浄化してくれるそんな入浴剤をつくりたくなってしまったの」
そう言って紗羅は、ジェット機が待つ窓の方に身体を向けた。
トレンチのポケットから取り出した携帯を開き、匿名で送られてきた画像を開いた。
そこには、紗羅が愛してやまない達哉と自分以外の女性がベッドの上で抱き合っている姿が映し出されている。
《達哉さん ・・・わたくし、一度信じた愛は貫き通す主義ですわ》
そう小さく呟きながら、携帯をポケットに仕舞いこみ、サングラスをかけ、トレンチの襟をそっとただした。