紗羅と咲、宿命の女の戦い 48話
「達哉の記憶が戻っただとっ?!」
父である達乃助は声を荒げた。
「はい、社長。たった今院長より連絡が入ったところです。ただ・・・傍に・・・美肌紗羅様がいらっしゃったようで・・・」
達乃助の秘書が言いにくそうに話した。
櫻小路財閥の最上階にある社長室の窓を眺めながら、達乃助は髭を触った。
「言うことを聞かないオンナだな・・・」
面会謝絶が取れた病室で達哉は再び目を覚ました。
ベッド横にはずっと紗羅が見守っている。
「達哉さん、ご気分はいかがかしら?」
「・・・紗羅、もう一度キミの顔を見れるとは思っていなかったよ」
達哉は低い声でこう話した。
「達哉さん、どんなに心配したか分かる?もう二度とこんなことしないで」
紗羅の大きな瞳から涙があふれている。
「紗羅、ごめんよ。本当に・・・。でも、もう僕は以前の僕ではいられないんだ。
紗羅・・・僕たち・・・終わりにしよう。もうここには来ないで欲しい」
記憶が戻った達哉は、誰よりも大切な紗羅に向かってこう告げた。
「美肌紗羅様、そろそろ達哉さんのお父様がいらっしゃる時刻です」
もっと話したいことがある紗羅であったが、「また来るわ」とだけ話し、病室を後にした。
紗羅には歩くことすら、立っていることすら、出来なかった。
こんなとき“いいオンナ”とはどう振る舞うのであろう?
「達哉さん!こんなことって!」
床に崩れ、泣くことすらも出来ない紗羅であった。